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坐骨神経痛の原因・症状・鍼灸治療


坐骨神経痛とは

 坐骨神経痛とは、椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症・変形性脊椎症・辷症・梨状筋症候群・仙腸関節障害等を原因とする集合的な症候名です。
臨床において重要なことは、これら坐骨神経痛の原因疾患により予後も異なり、鍼灸も含めた保存療法の治療効果も異なることです。したがって原因疾患の鑑別は重要です。
臀部から大腿後外面・下腿の外側を通るL5神経根ト、大腿下腿後面・アキレス腱を通るS1神経根由来の痛みを主としたいわゆる腰仙骨神経叢由来の症状を示します。
坐骨神経痛の原因でもっとも頻度が高いのは、L4〜L5レベル(L5神経根障害)での椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症の神経根型が多いといわれます。

 坐骨神経痛を起こす原因疾患には20〜40歳代での坐骨神経痛は椎間板ヘルニアに起因することが多く、その場合は男性に多くみられ発生行為はL4〜L5 L5〜S1で全体の90%以上を占めます。
高齢者では脊柱管狭窄症・とくにL4〜L5における片側L5神経根由来のものが多いといわれます。50歳以上で歩行により出現し、それが休息により改善(間欠跛行)する坐骨神経痛でSLRテストが陰性の場合は、脊柱管狭窄症の神経根型を疑います。
しかし、急性の坐骨神経痛(神経ね性疼痛)は50%が6週以内に急性発作から回復するとされています。
重篤な病変・血管病変・股関節疾患なども否定的で股関節の内線により症状が誘発される場合は、梨状筋症候群の可能性があります。

腰椎椎間板ヘルニア

 筋肉性の腰痛と比べ腰椎椎間板ヘルニアでは、下肢症状がとれず難渋する場合もあります。現代医学によるMRIによる診断研究により解ってきたことは
1. ヘルニアの自然縮小が認められること。
2. ヘルニアによる神経根の圧迫が有っても、腰痛や坐骨神経痛を訴えない人がいること。逆に
3. ヘルニアによる神経根の圧迫がなくても、腰痛や坐骨神経痛を訴える人がいること。
等です。
これらのことから、ヘルニアによる腰下肢痛はヘルニアによる圧迫とその周囲における炎症の科学的因子が関与していることが証明されてきています。

 椎間板ヘルニアの場合は、腰痛のみを有する場合もありますが多くは下肢痛を有します。また、くしゃみ・せき・排便時の力み等腹圧上昇に伴って下肢痛が増強する場合が多くみられます。
椎間板ヘルニアの場合、疼痛に伴う脊柱側弯を呈することがありますが、この疼痛性側弯は疼痛から回避するための機能的な側弯であり、いすに座ることで側弯は消失するので構築的な側弯と鑑別されます。
椎間板ヘルニアの場合、前屈の可動域制限が出現します。この定量的評価としては、指先床間距離が用いられており、治療効果の判定にも有用です。
腰椎分離症による腰痛は、通常後屈強制によって出現することから両者は鑑別されます。

 下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)や大腿神経伸張テスト(FNSテスト)による放散痛出現の有無
膝蓋腱反射やアキレス腱反射の減弱消失、筋力テストや知覚テスト等により障害神経根の行為を推定しますが、神経学的支配は神経の走行の個体差によって一定しておらず必ずしも明確には現れません。

 しかし、反射は嘘をつかないといわれます。患側のアキレス腱反射が低下していれば、L5〜S1ヘルニア(S1神経根障害)
膝蓋腱反射の低下を認めれば、L3〜L4ヘルニアあるいはL4〜L5の外側型ヘルニア(L4神経根障害)を疑い大腿神経伸展テストを行います。
通常のL4〜L5ヘルニアではL5神経根が障害されますが、外側型ヘルニアでは下降したL4神経根が椎間孔外で傷害されます。とくに健側の下肢伸展挙上テストで患側の下肢痛が再現される場合、ヘルニアである可能性が極めて高いとされます。

腰椎椎間板ヘルニアのインフォームドコンセント

 椎間板ヘルニアの治療法は、手術療法とそれ以外の保存的治療法に大別されます。
神経根障害の発生には何らかの炎症が関与しているため、圧迫が残っていても炎症が治まれば症状は軽快すること。ヘルニアの形態によっては縮小消失してしまうことも期待されることから、基本的には保存療法が選択されます。
実際に椎間板ヘルニア患者の手術療法・保存療法を比較した研究によると、1年の短期成績では手術療法が優れているものの、4年以上の長期成績には両者に差はないとされています。
しかし、社会的な要因から早期の復職を希望する場合・耐え難い疼痛を有する場合・強い麻痺症状が存在する場合には手術療法が選択され、その頻度はヘルニア患者の約10%であるとされています。
膀胱直腸障害を呈する場合には可及的早期に手術を行い、馬尾神経の圧迫を取り除く必要があります。

 椎間板ヘルニアは、鍼灸治療で必ず直る病態では決して有りません。椎間板ヘルニアは自然縮小もあり、鍼灸治療によって自然治癒力を更新させること。それとヘルニア近傍の筋緊張を緩めることによって圧迫状態の改善・局所の血流促進・神経公約の解除などが期待され、自然縮小の促進と痛みの改善が期待できます。
しかしそれでも直らないことがあるので、経過を見て手術などの現代医学の治療に委ねるかどうかを判断します。経過を見るには通常の腰痛よりも長く、週2回以上の治療を1,2カ月継続してください。
一方、下肢伸展挙上テスト(slrテスト)や徒手筋力検査といった理学的所見の優劣は、必ずしも鎮痛効果や予後の優劣と相対していないようです。つまり、ヘルニアの重症度と改善率はあまり相関しません。そのため患者が手術忌避であるならば、とりあえず鍼灸治療を行うことは意義があると考えられます。

腰部脊柱管狭窄症

 椎間板ヘルニアでは前屈が制限されるのに対し、狭窄症では前屈より後屈が制限されます。詳細は
「神経性間欠跛行(かんけつはこう)」参照

梨状筋症候群

 梨状筋症候群は、梨状筋が座骨神経を圧迫することによって起こる症候群で、症状としては殿部痛やそれより末梢の座骨神経走行上の痛み等が生じます。
梨状筋は殿部の深部にある筋肉組織です。梨状筋が大坐骨孔を通るとき、上下に二つ隙間ができます。つまり、梨状筋上下孔ができます。
上殿神経と上殿動脈はその孔の上を通過し、下殿動脈・下殿神経・座骨神経・陰部神経などはその下孔を通過しています。
梨状筋が損傷したりその筋肉が収縮して上下孔の神経や動脈が圧迫されると、腰部と大腿部の筋肉に一連の病理変化が生じ、症状が出現します。これを臨床上梨状筋症候群と呼んでいます。

 梨状筋は深部筋肉ですが、体表に投影される部位は上後腸骨棘と尾骨先端・それに大転子の3点によってできる3角形の深部にあります。
梨状筋の部位は病的になっている場合は圧痛が著明で、その部を深く強く王圧すると柵状野硬結を触れるので、比較的見つけやすいです。梨状筋症候群は主に座骨神経に障害を来すので、梨状筋を目的に治療すると患者は楽になります。鍼は深部をピンポイントで刺激できるので、本疾患にはきわめて有効な治療法だと思います。

坐骨神経痛の鍼灸治療

 鍼灸臨床において必要なことは、鍼灸治療の適応を決めることです。
鍼灸治療は、原因部位としての異常脊椎への治療、症状部位としての臀部や下肢への治療、全身調整の治療の三つに分けて鎮痛・筋緊張や血液循環の改善を目的に行います。

1. 原因部位への治療
 痛みや痺れの局所に対しては、問診と理学的検査で測定したヘルニア行為の兪穴付近に深刺します。
腰部神経根症の症例では、大腸兪付近・とくにやや外方に存在する圧痛点が著明な場合や、圧迫すると下肢に放散する場合にこの点に刺鍼すると直後の鎮痛効果が得られやすいようです。なお直後鎮痛効果が得られにくい症例は、年齢が高く・罹病期間が長く・さまざまな保存療法・とくに神経ブロックによっても改善がみられていないという傾向があります。

 また、側臥位で脊柱を少し丸めることで、脊柱の棘突起や椎間関節などを触診しやすい状態にして責任行為とされる夾脊穴部(棘突起の外方0.5〜1CM)・椎間関節部(椎骨棘突起後縁部より外方2CM)・腰部脊柱管狭窄症では、椎間孔に近い部位(椎骨棘突起部より外方3CM)を刺入点とします。
 ヘルニアの場合、脱出した髄核が神経根に当たらないように無意識に(反射的に)筋肉が緊張して防いでいるところに筋緊張改善を目的とした鍼治療を行い、緊張が解れてむしろ神経根症状が悪化することもあり得るので、新先例で患側の筋緊張が非常に強い場合にはその部位への刺鍼はやめておいた方が無難な場合もあります。

 梨状筋症候群の刺鍼部位は、つぼでいう環跳と秩辺(いずれも下に大殿筋と梨状筋が有り、深部や外側に座骨神経が通っています。)および大転子先端後縁の圧痛点(梨状筋付着部)等で、太い長鍼にて約50MM留置鍼します。

2. 症状部位への治療
 下肢は自覚症状のある部位の神経支配領域の圧痛や緊張が強い部位を触診で探して刺鍼します。具体的には
l5の神経支配領域に痛みがある場合は、下腿前面の足三里や上巨虚から深腓骨神経を、下腿外側の陽陵泉や崑崙から浅腓骨神経を
S1の神経支配領域に痛みがある場合は、下腿後面や足底部の痛みや痺れに委中や承山より脛骨神経等その神経支配領域の下肢を刺激して、症状のある部位の末梢神経に刺激を与えて閾値の上昇を狙った治療をします。

3. 全身調整
 体質的な背景を整えることで、経過によい影響を与えることが可能です。背部兪穴を中心に触診で反応(とくに虚している)のある部位に留置鍼しています。兪穴は比較的深く渋るまで刺入します。


    <キーワード>    
 下肢伸展挙上テスト(SLRテスト) : 背臥位で下肢を伸展したまま挙上させると座骨神経が伸張され、下肢の疼痛が出現増強し、挙上が制限される。このさいの挙上角度を記録しておき、その後の治療効果の判定にも用いる。

参考文献 : 医道の日本2003年3&4月号
医道の日本2004年1月号
医道の日本2005年7月号


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