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近年、腰痛に対する概念が大きく転換しつつあり、従来の椎間板の障害といった形態的異常を腰痛の病態とする考え方から、目に見えない機能障害という視点からも腰痛の病態を把握しようとする考え方です。
そして現在の腰痛の鑑別は、緊急を要する特異的腰痛(炎症や腫瘍・外傷などの重篤な疾患)と、その他の非特異的腰痛(いわゆる腰痛症)に鑑別されています。
ぎっくり腰は非特異的腰痛であり、その誘因としては、重いものを不安定な姿勢で持ち上げようとしたときや、洗顔などささいなことでも発症します。
3ヶ月以上持続する腰痛を、慢性腰痛としています。
変形性脊椎症・椎間関節症・椎間板症などの病名が使用されていますが、形態の変化と痛みとの関連は科学的に明らかではありません。
<病態把握>
非特異的腰痛は、神経症状や重篤な基礎疾患を有していないものです。
非特異的腰痛の原因は、厳密にどの解剖学的部位から腰痛が生じているかの決定は困難であり、現在は大まかに筋筋膜性・椎間関節性・椎間板性・仙腸関節性が考えられています。
1. 筋・筋膜性腰痛
筋膜を貫通している皮神経の絞扼障害(しめつけられる)・筋膜の疲労・筋断裂・筋内圧が原因としてあげられていますが、詳細は未だ明らかではありません。ほかに椎間板や椎間関節からの2次性のものもあります。
第3腰椎横突起外側は皮神経の分布が最大であるため、疼痛が発生しやすい部位です。
臨床症状として、痛みは動作性で可動域制限の低下(前屈時痛を伴う前屈制限)
腰椎の前弯症質、傍脊柱筋部に著明な圧痛点を認めます。
急性のものは、局所の熱感や腫脹がみられることもあり、椎間関節捻挫より疼痛域が上方も含めて幅広いことが多いようです。
2. 椎間関節性腰痛
椎間関節の変形性変化・異常可動性・外傷などにより、椎間関節に分布する脊髄神経の後枝内側枝が刺激されて腰痛が生じるといわれています。しかしその原因は、はっきりしていません。
また、椎間関節だけが腰痛の原因となることは少ないと考えられています。
臨床症状は、腰部の疼痛部委は腰部・腰仙部で、左右いずれかの側に優位に痛みが出ます。
関連痛が臀部・大腿部に現れますが、膝より下の下肢には及びません。関連痛が責任部位別に異なります。
検査は、罹患関節に一致した圧痛があるかどうか
罹患関節部の後屈制限と後屈時痛(前屈痛が伴うこともある)の有無
急性時、体動不能かどうか
患者自身が、痛みの最強部位を示すことができるか否かで判断します。
3. 椎間板性腰痛
椎間板変性が構造的に腰痛を惹起して、椎間板変性が炎症や疼痛誘発物質を排出することから痛みが出ます。
臨床症状は、圧痛点がはっきりせず、深部で重苦しく両側性の腰痛であることが多いとされます。
関連痛は、腰殿部・大腿外側部・鼠径部にみられます。
寝ている時や同一姿勢をとった後の動作開始時に、腰のこわばったような腰痛を生じることが多いとされます。
4. 仙腸関節性腰痛
骨盤周囲の筋の協調運動に破綻が生じ、関節の微妙なずれによって機能障害が起こることで痛みが生じます。
疼痛部位としては、関節包・関節後方の靭帯領域です。
臨床症状としては、仙骨外側部に鋭く強い痛みと鈍い痛みがあります。また患側を下にした側臥位で、痛みを誘発することが多いとされます。
関連痛としては、大腿外側部に広がる痛み・下腿から足指にかけての痛み・大腿後面のつっぱり感・鼠径部の痛み・坐骨結節部の痛みが有りますが、痛みの範囲は連続しないのが特徴です。
検査としては、圧痛点(患側の仙腸関節部で圧を加える)、パトリックテスト、ワンフィンガーテスト(上後腸骨棘という骨の出っぱりあるいはその近傍2cm以内を最も疼痛の強い部位として指し示す)によって判断します。
内臓性腰痛は自発痛であって、その痛みは運動による影響を受けません。全身状態が良好かどうか・ガンの既往歴なども重要です。
夜間痛・自発痛が激しく、動いても痛く安静にしても痛みは楽にならず経過が進行性であれば、速やかに病院で検査をおすすめします。
ぎっくり腰などの脊椎性腰痛は運動痛であり、安静により痛みが軽減することが特徴です。この場合は、鍼灸の適応となります。
仰臥位の場合は、「膝の下に座布団や枕などを楽な高さに調節して寝る」ことにより骨盤の前弯を減らすので、その姿勢が勧められます。
腹臥位で寝ることは、腰椎の前弯が増強するためさけてください。腰痛の時は、側臥位で患側を上にして膝を軽度屈曲する姿勢が楽になります。
腰痛に限らず、急性激痛の時は、入浴は厳禁してください。炎症がおきているときに暖めると後で痛みが増悪します。シャワーなどですませてください。
急性発症直後は、とくに椎間関節捻挫の患者は疼痛の強い期間の2,3日は安静臥床を守ってください。
腰痛を起こす疾患はたくさんありますが、急性のぎっくり腰の場合予後は良好で、約1週間以内・長くても10日以内、治療回数では2〜5回ぐらいで緩解します。
治療に長期間かかり、難渋する脊椎性の慢性腰痛性諸疾患との区別が必要です。
1. 患者の体位
側臥位で背中を少し丸めることで、脊柱の棘突起や椎間関節などを触診しやすい状態で行います。患者が楽な姿勢で行うことが大切です。
腹臥位が長く続くと、腰椎の前弯が増強することで起立筋群の筋が過緊張を起こし、かえって疼痛を増悪させてしまうことがあります。
2. 病態別刺鍼部位
a. 筋・筋膜性
脊柱起立筋・多裂筋・腰方形筋・殿筋などの筋の過緊張や反応点のある部位に刺鍼します。
長時間の座位・前傾姿勢の立ち仕事などは殿筋の緊張を起こしやすく、圧痛や硬結がよく認められやすい部位としては、大殿筋は仙骨外側部、中殿筋は腸骨稜の直即に頻度が高く出ます。
腰筋と対応関係にある腹筋の緊張を、背部多裂筋の関連痛として天枢・大巨などのツボで確かめ、留置鍼して腰部の筋緊張の緩和を経験することがあります。
そして下肢筋にも圧痛を認めることが多く、主に下肢後側の委中・陽陵泉・承山・崑崙などの経穴(ツボ)から選択して刺鍼します。
b. 椎間関節性
椎間関節付近への刺鍼により、疼痛部位への響き感がポイントとなります。
棘突起の下端より外方に約1.5〜2cm、または2横指外側が椎間関節部の中央に当たる点とします。
直刺で深刺した際、もちっとした感覚(粘着感)の組織が鍼先を通して感じられ、疼痛部位への響き感が得られればよいとします。
逆に、疼痛部位への響き感が得られない時は効果が期待できないといわれますが、発症直後は深刺はできないので、私は発症から2,3日は周辺に浅刺をします。
直すこと以上に、悪化させないことがリスク回避の上でも重要だと思います。
とくに椎間関節性は、発症から2日間は冷湿布をして安静にしているのが1番よいと個人的には思っています。
c. 椎間板性
椎間板性であれば、腰部の椎間部に関連する皮膚や筋・または神経を介した刺激をします。圧痛部への刺鍼により、深部に響き感が得られることが重要です。
d. 仙腸関節性
仙腸関節性であれば上後腸骨棘周辺に痛みがあり、ゲインズレンテスト・ニュートンテストが陽性となり、仙骨外縁を圧すると症状部位に痛みが放散することがあります。
この場合、仙骨外縁や上後腸骨棘の直下よりやや外側部を刺激します。
経穴部位としては、上リョウ・次リョウの刺鍼により痛みの自覚部位へ放散すれば直後効果が高いと思われます。
参考文献 : 医道の日本1999年4月号
医道の日本2009年9&10月号