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針治療では、絞扼部位に対するピンポイント治療ができます。

 長文過ぎるので、症状と治療をページ分割しました。

タイプ別鍼灸治療の必要性

 一般的には、電車の吊革につかまるなどの上肢挙上動作で症状が出現あるいは増悪する場合、腕神経叢に対する圧迫要因が胸郭出口部の何れかの部位に存在すると考えられます。
一方、買い物袋を手に提げるなどの上肢下垂動作で症状が出現あるいは増悪する場合は、胸郭出口部で腕神経叢の遊びがなくなっていることと、腕神経叢が伸張刺激に過敏になっていることが牽引要因になっています。
また、罹病期間の長いケースは自律神経障害を合併する場合が増えるため、自律神経障害に対するアプローチが必要になり、局所に対する鍼灸刺激も軽めに行います。

 針灸治療では、絞扼(しめつけられる)部位に対するピンポイント治療ができます。診断により治療点が変化するのですから、正しい診断が必要となります。
胸郭出口症候群所属の頚肋・斜角筋・肋鎖・過外転症候群のどれかという判別です。
しかし、理学テストはルーステスト以外はあまり信用できず、またそれぞれのテストによる腕神経叢への機械的刺激はどれも胸郭出口部全体に及ぶため、脈管テストの結果から胸郭出口部における障害部位を特定するようなことは困難です。

胸郭出口症候群に対する鍼灸治療

 胸郭出口症候群(以下tos)の病態は複雑ですが、圧迫と牽引のどちらの要因が現在の症状により強く影響を与えているかを見きわめることが治療方針を決める上で重要です。
圧迫要因に対しては、胸郭出口部の構成筋である斜角筋などの過緊張改善と、腕神経叢の過敏性抑制を目的として鍼治療を行い、腕神経叢に対する除圧をはかります。
しかし多くの症例は、圧迫と牽引の両方の要素を併せ持っているので、実際には両方の要因に対するアプローチが必要と考えられます。
上肢を外転するルーステスト等の肢位で症状が改善する場合は、圧迫要因はほとんど含まれないと考えられます。

鍼治療部位

1. 胸郭出口部周囲筋(前中斜角筋・鎖骨下筋・小胸筋)
 斜角筋は頚部の回旋補助筋ですが、呼吸補助筋でもあります。触診に際しては、深吸気に伴う斜角筋の緊張を利用します。特にtos患者は、深吸気に伴い斜角筋が強く緊張します。
ツボでいう斜角筋の刺入部位は、側頚部中央部で胸鎖乳突筋と僧帽筋間に圧痛あれば、刺入します。天鼎刺鍼が代表的です。
※天鼎位置 : 喉頭隆起([こうとうりゅうき]は、俗にのどぼとけとも言い、喉の中間にある甲状軟骨の突起したところ。)の高さの胸鎖乳突筋中に扶突穴をとる。
扶突の後下方1寸で胸鎖乳突筋後縁に天鼎穴をとる。
しかし斜角筋や腕神経叢を刺激するには、中国式天鼎の位置の方がよい。
中国式では、甲状軟骨と胸鎖関節の中点の高さで、胸鎖乳突筋の後縁から下方1寸とする。
すなわち中国式は教科書と比べ、2寸ほど下になる。
私は、気胸のリスクがある圧痛部位に対しては、円皮鍼を行います。

 鎖骨下筋は、肩甲間部と同様に気胸のリスクが高く、通常はその部分に強い圧痛や放散痛がない限りあまり施術しません。
針を第1肋骨と鎖骨の間隙に入れる。
これには気舎を刺入点として缺盆方向に刺入する方法がとられることが多い。
缺盆を刺入点とし気舎方向に刺入するのは、気胸事故の懸念があるので好ましくない。

 小胸筋は、大胸筋の下に隠れているため直接触知できませんが、この筋肉の付着部である烏口突起(うこうとっき)内縁は肺から外れているのでここを刺入部位とします。
小胸筋を刺激する目的で、烏口突起の内方1.5p、下方1.5pを刺入点として直刺するとよい(深刺しても気胸の心配がない)。
ツボは東洋医学固有のものと思われがちですが、その部位から筋肉や神経・血管等現代医学的にも応用できます。

2. 頚肩背部の筋肉(僧帽筋・肩甲挙筋・菱形筋・傍脊柱筋その他)
 具体的には、こり感や疼痛などの愁訴を訴える部位も治療部委となります。
肩甲間部の菱形筋は、こり感を強く訴える場合が多いのですが、非常に高い気胸のリスクを伴います。
また牽引傾向の強い場合、鍼治療により上肢帯の筋緊張が緩和するとなで肩が強くなり、一時的に症状が増悪する場合があるので、刺激量には注意を要します。

3. 肩甲背神経
 上肢症状の他に、肩甲骨の内上角や肩甲骨内縁のこりや痛みを訴える患者は少なくありませんが、それらはc5から分枝した肩甲背神経の中斜角筋部での絞扼(しめつけられる)による肩甲挙筋や菱形筋の症状であることが多いと考えられます。
鍼治療に際しては、c5レベルの中斜角筋に刺入します。

 日常生活アドバイス
就寝方法やvdt作業の環境が病態を大きく左右している場合があります。
急性期のtosは激痛でよく眠れない場合がありますが、その場合は背臥位においてバスタオルを折りたたんだものを左右の肩から上腕の下と膝の下に入れ、枕の高さも調節しながら肋鎖間隙を広げるよう姿勢を工夫します。

終わりに

 これといった原因が見つからず、治療効果が思わしくない肩こりの原因の一つに、胸郭出口症候群があげられます。
vdt作業の急増に伴い、tosと考えられる患者は今後ますます増加することが予想されます。
将来的に上肢症状を発症する可能性を潜在的に抱えたまま、頑固な頚肩こりとして鍼灸にかかっているtos予備軍的患者も決して少なくなく、そういった肩こり患者にただ漫然と鍼灸治療を行っても効果は上がりにくいと思われます。
肩こり患者の中にtos予備軍が少なからず潜んでいることを常に念頭に置いて治療を行うことで、先天性要因の影響が少ないタイプのtosは、鍼灸治療によく反応します。

        <キーワード>
円皮鍼 : 絆創膏に1〜2mm程度の長さの鍼が付いていて、それを最も著明な圧痛部に貼って、2,3日留置します。
子どもだましのように見えるかもしれませんが、持続的な軽い刺激で鎮痛効果があります。
最近は絆創膏にかぶれる人も多いので、痒かったりちかちかしたら剥がすように告げておきます。

烏口突起(うこうとっき) : 肩甲骨の前方に飛び出した烏のくちばしの形をした突起です。
上腕二頭筋短頭、小胸筋等たくさんの筋肉が集まっています。
腕を横に挙げると、鎖骨外端の下方に大胸筋と烏口突起との間とで陥凹部が現れます。ここがツボでいう雲門です。

参考文献 : 医道の日本2008年5&6月号
       インターネット上のブログ「現代医学的鍼灸治療」etc


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