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 外傷性頚部症候群(むち打ち損傷)

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 外傷性頚部症候群(むち打ち損傷)


はじめに

 外傷性頚部症候群は、過去にむち打ち損傷(鞭打ち損傷)として急激な頚椎の屈曲・伸展により生じる頚部痛として発表された疾患です。むち打ち損傷は、外傷性頚部症候群 (tcs) の多くを占めますが、イコールではありません。
本疾患の受傷機序(作用するメカニズム)として、追突の瞬間に上位頚椎は屈曲位・下位頚椎は伸展位となり、その後に全頚椎が伸展位をとります。
頚椎椎間関節への圧迫付加による障害に加え、上位頚椎後方を支えている後頭下筋群や大小後頭神経などの軟部組織も、急激な屈曲・過伸展により大きなダメージを受けることが推測されます。

 代表的な臨床症状として、頚部痛・ 緊張型頭痛頸性めまい ・上肢の痛み・しびれがあり、そのほかに眼症状や鬱状態・記憶障害・ 不眠症 など多岐にわたります。リンクは、いずれも別ページで開きます。
なお現在では、交通事故による障害だけでなく、転倒などの外傷を含めて外傷性頚部症候群 (tcs) と呼ばれています。

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外傷性頚部症候群の分類

 本症をその頚部愁訴・神経学的所見・脊椎の構築学的異常の有無で分類したもので、症状と重傷度によりグレード0~4に分類されています。
このうちいわゆるむち打ち損傷とは、明らかな神経学的脱落症状や構築学的異常(骨折や脱臼など)を伴わないグレード0~2に分類される状態と考えられます。

グレード0は、頚部愁訴が無く理学的所見もないもの。
グレード1は、頚部愁訴はあるが理学的所見のないもの。
グレード2は、頚部愁訴・理学的所見がともに認められるものです。
これらのグレードは、画像で捉えられる異常所見がないかあってもごく軽微であり、客観的な神経学的異常所見が認められないにも関わらず実に様々な自覚的症状を呈する場合があります。
外傷性頚部症候群の病態は不明であり、決め手となる有効な治療法もありません。

グレード3は神経学的異常を伴うもので、頚部神経根や腕神経叢の障害が考えられます。
神経学的所見として、上肢の筋力・表在知覚・深部腱反射に異常がみられた場合、重症度分類のグレード3となり、外傷性頚部症候群ではなく外傷性頚髄神経根損傷が疑われます。
上肢のしびれの訴えとともにモーリーテストやルーステストなどが陽性となることが急性期にありますが、この場合は 胸郭出口症候群 の合併を疑います。
グレード4は、頚椎の脱臼や骨折を伴うもので、その多くは脊髄損傷による四肢麻痺となります。

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外傷性頚部症候群の症状

 ケベック重症度分類0~4の全てのグレードにおいて、めまい・耳鳴り・頭痛・記憶喪失・嚥下障害・顎関節痛が出現する可能性があります。
1. 整形外科的障害
後頚部痛・頚部可動域制限・肩甲上肢痛
2. 神経的障害
感覚障害(しびれ感・脱力感)
3. 聴覚障害
無難聴性耳鳴 を含む耳鳴り・聴力低下

4. 耳鼻咽喉科的障害
嚥下障害・発語障害・咽喉麻痺
5. 平衡障害
回転性めまい・否回転性めまい
6. 口腔外科的障害
咬合障害・顎関節痛・顎関節不安定症
7. 神経心理的障害
不安神経症・記銘力障害・注意力障害・情動および認知障害・失語症・鬱病
8. 脳神経外科的障害
頭痛・嘔吐・外転神経麻痺

 1.および2.の頚部から上肢にかけての疼痛やしびれ等は、頚部の筋肉や腱など軟部組織の顕微鏡的損傷や神経根・腕神経叢の刺激症状と考えられ、これらは頚部に力学的付加が加わった結果発症した症状と判断できます。
しかし3. 4. 5. 8.の症状は、自律神経障害・内耳障害・等々が原因として考えられていますが、何れも様々な検査を駆使しても器質的障害を証明できていないのが現状です。

 突発性低髄液圧性頭痛は、座位または立位をとると15分以内に増悪し、項部硬直・耳鳴り・聴力低下・光過敏・おしんなどを伴います。
外傷性頚部症候群の患者の中で、突発性低髄液圧性頭痛と同様の症状を呈し、6ヶ月以上尖炎化する場合、低髄液圧性症候群の疑いがあるといわれています。
外傷性頚部症候群そのものが病態が解明されていない疾患であるので、その中に低髄液圧症候群が含まれている可能性は否定できませんが、低髄液圧症候群それ自体、今のところその正確な原因・病態の解明・有効な治療法の確立には到っていません。

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外傷性頚部症候群の鍼治療

 ある程度の治療を受けた後に、残存する症状の緩和を目的に鍼灸治療を選択する場合が多く、そのため来院患者の多くは慢性期に入っているものと考えられます。
この時期には、頚部の筋や肩甲上肢帯筋に初期に認められる局所に触れられることを嫌がるほどの痛みはある程度落ち着いていることが多く、むしろ後頭部から頚の付け根にかけての深部の鈍痛や肩背部の凝り感・頭痛・めまい等のいわゆる不定愁訴が中心となることが多いです。
鍼治療は、後頭下筋群や大小後頭神経・頚椎椎間関節に対し、アプローチを行います。
上位頚椎後方の障害は頭痛やめまい等の不定愁訴の原因になると考えられ、特に後頭下筋群の筋スパズム(過緊張)に注目し治療対象とします。

1. 後頭下筋群(大後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋)等に対するアプローチ
 治療対象とするのは、これら大後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋などの後頭下3角を構成する筋で、急性期以降も残っている筋スパズム(過緊張)を改善するために鍼治療を行います。
頭痛などの症状があるうちは緊張が強いので触知しやすく、鍼治療を行う際には筋の圧痛硬結部を目標に、刺入により疼痛部位に軽い放散痛が得られることを目安とします。
急性期においては、極力細い鍼を用いて刺激感を少なくし、単刺術あるいは置鍼術を行います。

2. 大後頭神経・小後頭神経に対するアプローチ
 大後頭神経は、頭頂部から前頭部・眼底部にかけて頭痛を訴える場合に鍼治療を行います。
下頭斜筋と大後頭直筋の筋腹上または後頭部の下降線上の表層部分で、押圧により頭頂部や眼底部への放散痛が得られる場所を鍼治療部位とします。
側頭部を中心とした頭痛の場合は、小後頭神経の関与が考えられ、胸鎖乳突筋後縁で押圧により耳介後方から頭頂部にかけて放散痛の得られる場所を鍼治療部位とします。
鍼の深さは、刺入により愁訴のある部位に放散が得られることを目安とし、置鍼または単刺を行います。

3. 頚部浅層筋に対するアプローチ
 急性期の筋痛が改善した後も凝り感などが続く場合が多く、緊張や循環改善を目的に圧痛部に対し鍼治療を行います。
4. 頚椎椎間関節に対するアプローチ
 椎間関節の圧痛と同時に肩背部に放散する痛みがある場合に行います。
頚椎症の治療と異なる点は、急性期には極力細い鍼を用い、刺激感は刺入により疼痛部位に軽い放散が得られる程度の刺激にとどめます。
頚椎装具は、長期間使用していると頚部周囲の筋力低下を惹起するため、受傷直後の頚部痛が顕著な時期のみに使用すべきと言われます。

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おわりに

 ケベック治療ガイドラインは、治療の大部分が3ヶ月以内に終了することを前提に作成されているようで、実際に受傷3ヶ月経過しても症状が改善せず実状とはそぐわないともいわれています。
実際に鍼灸治療に訪れる患者は急性期を過ぎ、慢性疼痛疾患としての側面が強い場合が多く、この場合の治療は急性疼痛ではなく、症候的な痛みと不定愁訴の改善が目的となります。
現在、慢性期の治療法としてエビデンス(科学的根拠または根拠に基づいた医療の意味)のある治療法はありません。
そのような中で、鍼治療の良い点を生かせるならば、多くの患者さんに役立つものと考えられます。

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